ワコム Research Memo(1):2023年3月期上期は増収ながら減益。販売予測の見直しにより通期予想を減額修正
■要約
ワコム<6727>は、デジタルペンとインクの事業領域で、技術に基づいた顧客価値の創造を目指すグローバルリーダーである。映画制作や工業デザインのスタジオで働くデザイナー、アニメーターなどプロのクリエイターからの支持により高いブランド力とシェアを誇る。自社ブランドで「ディスプレイ(液晶ペンタブレット)製品」や「ペンタブレット製品」等を販売する「ブランド製品事業」と、スマートフォンやタブレットなど完成品メーカー向けに独自のデジタルペン技術をコンポーネントとして供給する「テクノロジーソリューション事業」の2つのセグメントで事業を展開している。
1. 2023年3月期上期の業績概要
2023年3月期上期の連結業績は、売上高が前年同期比7.7%増の54,138百万円、営業利益が同69.8%減の2,284百万円と増収ながら減益となった。「ブランド製品事業」(中低価格帯モデル)が経済環境悪化に伴う消費マインドの急激な冷え込みやコロナ特需(オンライン教育や巣ごもり需要など)の落ち着きなどにより減収となったものの、円安によるプラス効果や「テクノロジーソリューション事業」の伸びによりカバーし、売上高全体では増収を確保することができた。損益面では、円安効果や「テクノロジーソリューション事業」により収益の押し上げがあった一方、「ブランド製品事業」における粗利益率の低下(製品ミックスの悪化や、為替変動によるドル建て仕入価格の高騰に対してドル建て以外の売上収入の部分が為替変動のマイナス影響を受けたことなど)や販管費の増加により営業減益となった。活動面では、セルシス<3663>(旧 アートスパークホールディングス(株)。子会社である(株)セルシスと2022年9月1日付で合併し、商号をセルシスに変更した。以下、セルシス)との資本業務提携(「CLIP STUDIO PAINT」を通じた教育など特定用途に向けたクリエイティブ制作体験の共同開発など)や、サムスン電子「Galaxy Z Fold4」向け「Sペン」への搭載、フラッグシップモデル「Wacom Cintiq Pro 27」の発表などで成果を残すことができた。
2. 2023年3月期の業績見通し
2023年3月期の連結業績予想について同社は、上期実績や今後の見通し等を踏まえ、2022年10月14日に減額修正を公表した。売上高は前期比9.4%増の119,000百万円、営業利益は同53.9%減の6,000百万円と増収減益となる見通しである。売上高予想を減額修正したのは、主に「ブランド製品事業」によるものであり、市場環境の変化に鑑み、1)「ペンタブレット製品」及び「ディスプレイ製品」における中低価格帯モデルの販売予測を見直したこと、2)一部製品の市場投入時期を延期したことが理由である。その結果、「ブランド製品事業」は前期比で減収となる一方、「テクノロジーソリューション事業」については、円安によるプラス効果やOEM提供先メーカーとの強い関係を維持することで、通期でも大幅な増収を確保する見通しとなっている。損益面では、「テクノロジーソリューション事業」の伸びや円安による連結全体でのプラス効果はあるものの、「ブランド製品事業」において、売上減と製品ミックスの悪化といった主要因に加えてドル高傾向継続によるマイナス影響もあり、粗利益率が低下、連結でも大幅な営業減益となる見通しである。
3. 成長戦略
同社は、4ヶ年の中期経営方針「Wacom Chapter 3」(2022 年3 月期~2025 年3 月期)に沿った取り組みを推進している。経済環境悪化に伴う足元業績の落ち込みにより、成長イメージに時間的な遅れが生じたものの、戦略方向に変更はない。「ライフロング・インク」のビジョンを継承し、改めて「5つの戦略軸」を設定するとともに、その実行に当たって「6つの主要技術開発軸」を定め、具体的な価値提供と持続的な成長につなげる方針である。特に既存技術と親和性の高いAI、XR、Security の3 分野を選択し、新コア技術と新しいビジネスモデルで新しい価値提供を実現していくところが戦略の目玉となっている。既存ビジネスの伸びをベースラインとしたうえで、新コア技術・新ビジネスモデルの上乗せにより2 ケタの成長を目指す。
■Key Points
・2023年3月期上期は「ブランド製品事業」(中低価格帯モデル)の想定を超える減速により増収ながら減益
・経済環境悪化に伴う消費マインドの冷え込みやコロナ特需の落ち着きなどが大きく影響
・上期実績や今後の見通しを踏まえ、2023年3月期の業績予想を減額修正し、通期でも増収減益を見込む
・2022年3月期より中期経営方針「Wacom Chapter 3」を推進。新コア技術・新ビジネスモデルの立ち上げにより成長加速を目指す方向性に変化はない
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)